手順も引き継ぎもない…その仕事、本当に「自分にしかできない」ものですか?

経営を”見える化”する

その仕事、本当に“あなただけ”のもの?

「この仕事は、もう慣れてるから私がやった方が早いんですよ」
「他の人には難しいと思うんです」
「説明するのが面倒なので…」

──こうした言葉を、社内で耳にしたことはないでしょうか?

中小企業の現場では、ベテラン社員や長年いるスタッフに“特定の仕事が自然と集まってくる”という状況がよくあります。

実際、その人が手際よく対応しているので、誰も口を出さない。
そして気がつけば、その業務は「自分にしかできないもの」になっているのです。


しかしその状態、本当に「その人にしかできない」のでしょうか?

よくよく見てみると──

  • 特別な資格やスキルが必要なわけではない
  • 判断基準が感覚的になっているだけ
  • 手順が言語化されていないだけ

というケースがほとんどです。


実は、「属人化している業務」の多くは、本人すら“属人化している”と気づいていないことが多いのです。

これは、やっている本人に悪気があるわけでも、優越感があるわけでもありません。
むしろ責任感が強く、「誰かに頼るより自分で処理した方が早い」と思って行動している場合がほとんどです。


けれども、その状態を放置していると──
いざその人が辞める/休む/異動するという状況になったとき、「あの仕事、誰もできない…」という事態が簡単に起こります。


属人化の入り口は、ほんの小さな「任せっきり」から始まります。

  • 「前から〇〇さんがやってくれてるから」
  • 「とりあえず今はお願いしておこう」
  • 「忙しそうだから、あとで聞けばいいや」

その積み重ねが、“その人だけの業務”を作り上げてしまうのです。


まず最初に経営者がやるべきことは、
「その仕事、本当に“あの人だけ”のものか?」と疑ってみること。

本人も、周囲も、気づかないうちに属人化してしまっている業務を、
1つひとつ“見える化”していくことが、脱・属人化の第一歩になります。

属人化した仕事の“あるある”症状

属人化は、パッと見ではなかなか分かりません。
でも、実は現場に“症状”としてはっきり表れていることが多いのです。

ここでは、実際に多くの中小企業で見られる「属人化あるある」をご紹介します。
当てはまるものがないか、ぜひチェックしてみてください。


■「自分でやった方が早い」症候群

「教えるより自分でやる方が早いから」
「どうせ戻ってくるから、自分でやるよ」

一見、効率的に聞こえるこの言葉。
でもその裏には、「引き継ぎや仕組み化を放棄している」危険があります。

本当に効率的なのは、「自分以外でもできる仕組みをつくること」です。


■「それ、前からこうしてるから」ルール

業務に対して「理由は分からないけど、前からこうしてる」という反応が返ってくるとき。
これは“暗黙の前例踏襲”が続いている証拠です。

本来なら、やり方の意味や背景を共有して、改善の余地を検討することが大切です。


■「マニュアル? ないけど、やってる」現象

属人化している業務は、マニュアルが存在しないか、形骸化しているケースがほとんどです。

しかも、たとえマニュアルがあっても「今の実務とは違う」「更新されていない」という落とし穴も。
この場合、“本人の頭の中にしかないルール”で動いている状態です。


■「あの人に聞かないと分からない」依存構造

  • ファイルの保存場所
  • 顧客とのやり取り履歴
  • イレギュラー対応の判断ルール

これらが「あの人しか知らない」となると、完全に属人化です。

この状態では、急な不在・退職に対応できず、業務が止まってしまいます。


■ 教える時間がない・教えても続かない

教育を後回しにした結果、「結局あの人しかできない」状態が固定されることも。

また、引き継ぎがうまくいかなかった経験があると、
「どうせ教えても…」という諦めモードになり、改善の動きが止まります。


このような“あるある症状”が出ている仕事は、すでに属人化のリスクを抱えています。

でも安心してください。
これらの業務は「見える化」→「言語化」→「引き渡し」を段階的に進めれば、
無理なく属人化を解消していくことができます。

簡易マニュアルはA4一枚でOK

「業務を引き継ぐには、まずマニュアルを作らないと」
──そう思って、結局何もできずに止まってしまっていませんか?

マニュアルというと、つい「完璧な文書」を想像してしまいがちです。
項目を整理し、図解を入れ、専門用語を説明し、Q&Aもつけて…。

でも現場で必要なのは、そんな立派なドキュメントではありません。
むしろ、A4一枚で十分です。


✅ なぜA4一枚でいいのか?

  1. 読むハードルが下がる
     長すぎると誰も読みません。必要なのは“必要なときに見られる情報”
  2. 作る側の負担が少ない
     完璧主義がマニュアルづくりの最大の敵。まずは「概要でいい」と割り切る。
  3. 試せば分かる“動く資料”
     A4一枚でも、実際にやってもらえば改善点が見えてきます。

✅ 書くべきはこの3点だけ

セクション内容の例
① 手順作業の流れを1〜6ステップ程度で箇条書き(例:請求書作成手順)
② 注意点「金額は税抜」「A社だけ締め日が違う」などの例外ルール
③ よくあるミス・Q&A「保存場所を間違えやすい」「ログインできないときの対応」など

✅ 実例:請求書発行の簡易マニュアル(抜粋)

① 顧客一覧から当月請求先を確認
② freeeで請求書テンプレートを複製
③ 案件名・金額・日付を入力(消費税は税込)
④ 発行 → PDF保存 → メールテンプレで送信
⑤ 請求一覧表に「済」と記録

【注意点】
・A社は15日締め/月末送付
・備考欄に案件名と連絡担当を必ず記載

【よくあるミス】
・税込/税抜の入力間違い
・送信後の記録漏れ

この程度の内容でも、「何をどうやっているのか」が見えるだけで属人化は一歩解消されます。

最初から完璧を目指さず、
「今のやり方をそのまま書き出す」ことから始めてみましょう。

「代替実験」=あえて別の人にやらせてみる

属人化を解消するには、
マニュアルを作るだけでは不十分です。

一番効果的なのは、“あえて他の人にやってもらう”こと。
これを、私たちは「代替実験(だいたいじっけん)」と呼んでいます。


✅ 代替実験とは?

対象の業務について、普段やっていない人に実際にやってもらうことです。

引き継ぎの準備を完璧に整える必要はありません。
まだ不完全でもいいので、「一度試してみる」ことが大切です。


✅ なぜ“実験”が必要なのか?

やってみてもらうと、次のようなことが分かります:

  • マニュアルに書かれていない作業が発覚する
  • 判断基準があいまいで人によってズレる
  • 資料やデータの保存場所が分かりにくい
  • 作業の順番に“前提条件”がある

こうした“つまずきポイント”は、実際にやってもらわないと気づけないものです。


✅ 「代替実験」は属人化のほぐしワーク

属人化された業務は、
時間が経つほど“他人に渡せない空気”が強くなっていきます。

でも、「ちょっとやってみてもらう」というカジュアルな形式にすれば、
当事者にも周囲にも心理的な負担がなく、属人化を緩めることができます。


✅ こんなやり方がオススメ!

  • 該当業務の担当者が隣で見守りながら、一度やってもらう
  • マニュアルだけを渡して「まずやってみて」と任せる
  • 終わったあとに「やりづらかったところ」をヒアリングする

ポイントは、“できた・できない”ではなく、“気づく”こと

この気づきをマニュアルにフィードバックし、
また別の人にやってもらうことで、少しずつ属人性は解けていきます。


属人化は、仕組みと同時に「慣れ」や「信頼関係」に根ざしている部分も多いです。
だからこそ、「試してもらう→改善する→任せる」を繰り返すプロセスが、
属人化の“脱却プログラム”になるのです。

上手くいく引き継ぎに必要なのは“見える・触れる・直せる”

属人化を解消し、他の人にも任せられるようにするには、
単に業務を「教える」だけでは足りません。

引き継ぎを上手く機能させるには、
“業務そのものを開かれた状態にする”ことが重要です。

そのカギとなるのが、
「見える」「触れる」「直せる」という3つのポイントです。


✅ 見える:業務の内容・手順が可視化されている

第一に必要なのは、「何を、どうやって、どんな順で行うか」が明らかであること。

  • 手順書や簡易マニュアルがある
  • ファイルや帳票の保存場所が共有されている
  • 使っているツール・システムが一覧化されている

これらが見えていれば、「とりあえず聞かないと分からない状態」から脱却できます。


✅ 触れる:他の人が“実際にやってみられる”状態である

次に大切なのは、実務に触れられる状況を作っておくことです。

  • 担当者以外でも操作ログインできる
  • 関連ファイルに編集権限がある
  • 説明を聞いた人が、自分の手で実行してみる機会がある

属人化した業務ほど、他の人が“遠慮して手を出せない状態”になりがちです。
触れられるようにすることで、「任せられる仕事」に近づきます。


✅ 直せる:マニュアルや仕組みを“更新可能”にしておく

そして忘れてはならないのが、「業務は変化する」ということ。
季節変動や取引先のルール変更、社内体制の見直しなどで、業務のやり方は常に進化します。

そこで大切なのが、

  • マニュアルが“固定された文書”ではなく、いつでも更新できること
  • 改善点や気づきを気軽に反映できる「柔らかさ」があること
  • 実行者自身が「これは直していいんだ」と思える雰囲気づくり

この「見える・触れる・直せる」の3要素が揃うことで、
引き継ぎや代替実行がスムーズに回り、
“あの人しかできない仕事”を脱却する流れが自然にできていきます。


属人化の解消は、仕組みだけでなく“文化づくり”でもあります。
他の人が業務に関わりやすくなる環境を整えることで、
会社全体の柔軟性・安定性が大きく向上します。

まとめ──「自分しかできない」は思い込みかもしれない

中小企業では、人手が限られているからこそ、
「この仕事は自分しかできない」と思い込んでしまいやすいものです。

でも実際には──
✔ 書き出せば手順が見える
✔ やってもらえば改善点が見える
✔ 任せてみれば“できる”ことに気づく

属人化された仕事の多くは、“引き継げない”のではなく、“引き継ごうとしてこなかった”だけなのです。


もちろん、すべての業務を一瞬で標準化することはできません。
ですが、たった1つでも属人化から抜け出せたら、社内の空気は確実に変わります。

  • ほかの人にお願いできる
  • 自分が不在でも仕事が回る
  • 会社の仕組みが積み上がっていく

これが、“止まらない会社”への第一歩です。


引き継ぎに必要なのは、完璧なマニュアルでも、高価なツールでもありません。
「試してみよう」「伝えてみよう」「直してみよう」という、
ほんの少しの工夫と、行動する勇気です。


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次回はいよいよ最終回。
テーマは、
「社長がいなくても回る会社」はこうして作る──小さな会社のための3ヶ月DXステップ
をお届けします。

「見える化」や「任せる仕組み」をどう“仕組み化”し、“会社全体の体質”として根付かせるか?
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