はじめに──“辞められたら困る人”がいる会社は危ない?
「この仕事はあの人にしかできない」
「請求はいつも〇〇さんがやってくれてるから…」
「社内のやり方は全部、営業の△△くんが知ってるよ」
そんな状態のまま、日々の業務を何となく回していませんか?
実際、私が支援してきた中小企業の多くも、最初はこうした“頼れるキーマン”が会社を支えていました。
ところがある日、そのキーマンが突然──
- 「家庭の事情で退職します」
- 「体調を崩したので、しばらく休みます」
- 「引き継ぎ期間が取れず、明日で辞めます」
といった出来事が起きた瞬間、会社の中が真っ白になるのです。
「請求書って、どこから出してたの?」
「A社とB社で締め日違うって、誰か知ってる?」
「このExcelのフォルダ、どこにあるんだっけ…?」
現場では混乱が起き、
経営者は顧客への対応や金融機関への報告に追われ、
「こんなことで…」という小さなトラブルが、信用や売上にまで波及します。
属人化とは、“業務の中身が見えないこと”によって、すべてが1人に依存する状態です。
そしてその状態が当たり前になると、いつしか「何か起きたときに止まる会社」になってしまいます。
「今のところ問題はないから大丈夫」と思っている方ほど、
“辞められたら終わるリスク”がすでに隣にあるということに、気づいていないかもしれません。
「属人化」って、そもそも何が問題なのか?
「属人化」という言葉自体は、
最近ではニュースやビジネス書でもよく耳にするようになりました。
でも、実際の現場では──
「なんとなく誰かがやってくれている」
「その人のやり方で進んでいる」
そんな状態が、“属人化”として定義されず、放置されがちです。
属人化とはつまり、「その人にしかできない仕事」が存在している状態です。
たとえば:
- 経理作業は〇〇さんしかわからない
- 社内ツールの管理は△△くん任せ
- クレーム対応は毎回あの人だけ
- 新人教育もAさんが感覚でやっている
これらは一見、“役割がはっきりしていて良いこと”のように見えるかもしれません。
ですが、その人がいなくなったら?
- 誰もやり方を知らない
- 引き継ぎができない
- 判断が人によってバラバラ
- 結果的に会社全体が止まる
属人化とは、「日常的に支障がない分、危険に気づきにくい」状態なのです。
しかも属人化の怖さは、業務の中だけにとどまりません。
- 顧客との信頼関係
- 社内での情報共有
- 外部とのやり取り(金融機関・仕入先など)
- 売上や契約、資金繰りのスケジュール
こうした経営に直結する部分が、“1人の頭の中”にあるだけで動いていることも珍しくありません。
中小企業では特に、「人が少ないから仕方ない」と思われがちですが、
実はそれこそが属人化の温床です。
人数が少ないからこそ、「誰が何を持っているか」「引き継げるようになっているか」を把握しておく必要があります。
属人化は、見えないうちは“効率的”に見えるかもしれません。
でも、その効率の裏側には「止まったらどうにもならないリスク」が潜んでいることを、まず知っておくことが大切です。
見えないから、備えられない──属人化の本当の怖さ
属人化の最大の問題は、“普段は見えない”ことです。
見えないからこそ、
・何が属人化しているのか
・誰が何を抱えているのか
・それがどれほど危険なのか
が、分からないまま時が過ぎていきます。
たとえば、経理の〇〇さんが毎月の入金処理を一手に担っているとします。
作業も早くて正確。誰も困っていない。
でも、誰もやり方を知らない。ルールも共有されていない。
そんなある日、〇〇さんが急に病気で1週間お休みに──。
「どこの通帳で確認してた?」
「請求先の一覧って、どのシート?」
「未入金の催促って、いつ・どうやって送ってた?」
…こうして、業務が一瞬で止まるのです。
属人化の怖さは、「平時にはまったく気づかない」ところにあります。
むしろ、業務がスムーズに回っているほど、
周囲は「〇〇さんに任せておけば安心」と思い込み、
いざ何か起きたときに慌てることになります。
さらに問題なのは、属人化された業務が“他の業務と密接に関わっている”場合。
たとえば請求処理ひとつが止まると──
→ 売上計上が遅れる
→ 入金確認ができない
→ 資金繰りの予定が狂う
→ 銀行への報告ができない
→ 信用が下がる
…と、会社全体の連鎖的トラブルに発展するのです。
属人化は“放っておいても表面化しないトラブル”です。
だからこそ、「見えるようにする」=可視化するというステップが何よりも大切になります。
最初にやるべき“たったひとつ”の対策とは?
属人化のリスクに気づいたとき、
「マニュアルを一気に作らなければ」
「ツールを導入しなければ」
と思う方が多いかもしれません。
ですが、最初の一歩はもっとシンプルです。
それは──
「属人化を見える化すること」、つまり“業務の棚卸し”です。
業務の棚卸しとは、
「誰が、どんな業務を、どのくらいの頻度で行っているのか」を書き出し、
属人化の全体像を“見える形”にすることです。
紙でもスプレッドシートでも構いません。
A4用紙1枚で十分です。
たとえば、こんな形式で書き出します:
担当者 | 業務名 | 頻度 | 属人度(1〜5) | 影響度(1〜5) |
---|---|---|---|---|
Aさん | 請求書発行 | 毎月 | 5(完全属人) | 4(重要業務) |
Bさん | 備品発注 | 随時 | 3 | 2 |
Cさん | 顧客電話対応記録 | 毎日 | 4 | 3 |
属人度=その人しかできない度合い
影響度=その業務が止まったときの会社への影響度
これにより、リスクの高い業務が一目で分かるようになります。
ポイントは、“全部やろうとしないこと”です。
会社全体の業務を一気に棚卸ししようとすると、忙しい現場では止まってしまいます。
だからこそ、最初は「1人の業務を、3つだけ書き出す」だけでも効果があります。
見える化されると、はじめて次のような行動が可能になります:
- どの業務を優先的に仕組み化すべきかがわかる
- 引き継ぎやマニュアルの対象を絞れる
- ツール導入や代替訓練のタイミングを判断できる
属人化を放置しない最初の一歩は、誰でも・今すぐ・無料で始められること。
それが「業務の棚卸し」です。
まずは「1業務だけ」から始めればいい
属人化を解消するには、会社全体の仕組みを見直さなければいけない──
そう考えると、手が止まってしまうのも無理はありません。
でも、全部やらなくていいんです。
最初は、たった1つの業務から始めるだけで十分です。
たとえば、以下のような業務は属人化しやすく、
かつ影響範囲が広いため、最初の一歩にぴったりです。
- 毎月の請求書発行
- 顧客からの問合せ対応(メール・電話)
- 入金確認と消込
- 勤怠集計と給与入力
- 外注先への発注・納期管理
✅ Step1:やり方を書き出す
その業務をどのような手順で行っているのか、
簡単な箇条書きで構いませんので書き出してみましょう。
① 請求対象の案件をExcelから確認
② freeeで顧客を検索し、請求書テンプレを複製
③ 金額・日付を修正し、PDF出力
④ メールテンプレで送信 → データを請求管理表に記入
このように、A4一枚におさまる程度のラフな手順書でも、他の人が理解する手がかりになります。
✅ Step2:その業務を誰かに“説明してみる”
書き出した内容を、他の社員に見せて「このとおりやってみて」と伝えてみましょう。
ここで重要なのは、完璧にやってもらうことではなく、“どこでつまずくか”を知ること。
- どこで悩んだか?
- どの言い回しがわかりづらかったか?
- 書かれていない前提知識が必要だったか?
これらをもとに、業務の言語化や補足を加えることで、少しずつ“他の人でもできる業務”に近づいていきます。
✅ Step3:情報の置き場所を決める
せっかく書き出しても、共有されていなければ属人化は解消されません。
- Google Driveの「業務マニュアル」フォルダ
- SlackやChatworkの固定メッセージ
- Notionの業務一覧ページ
など、誰でもアクセスできる場所に置いておくことで、
業務の“持ち主”が1人ではなくなる仕組みが生まれます。
1業務だけでも、属人化から脱却できた実感が得られると、
現場の空気が大きく変わります。
- 「こうすれば他の仕事も任せられるかも」
- 「実は私もこれ、困ってたんです」
- 「あの作業も見直しませんか?」
そんな声が自然に出るようになるのです。
属人化対策は、「やってみること」でしか進みません。
そして、そのスタートはたった1つの業務でいい。
まとめ──“もし辞められても”慌てない会社になるために
この記事では、属人化のリスクと、
その見えない怖さにどう立ち向かえばよいかについてご紹介してきました。
属人化とは──
「業務のやり方が、その人の頭の中にしかない状態」。
そしてその業務が止まると、会社の信用・売上・人間関係までが揺らぎます。
ただし、属人化は“誰かの責任”ではありません。
その人が悪いのではなく、会社の仕組みがまだ整っていないだけなのです。
だからこそ、属人化の解消は「仕組みで整えていく」ことが大切です。
そして、その第一歩は決して難しくありません。
- たった1つの業務を
- ざっくり書き出して
- 他の人に説明してみる
これだけで、「任せられる会社」への道が開きます。
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次回のブログ記事では、
「手順も引き継ぎもない…その仕事、本当に“自分にしかできない”ものですか?」
をテーマに、簡易マニュアルの作り方や“代替実験”の具体例をご紹介します。
お楽しみに!
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